横書きの長所短所
横書き・1段組にするメリット
- 横書きにすれば2段に分ける必要が全くないために1ページ当たりの字数が増える。
- アラビア数字の方が、漢数字よりも、視認性が高く、直感的に理解しやすく(特に西暦)、2文字以上の場合は半角にするために1ページ当たりの字数が増えやすいし、入力もしやすい(打鍵回数が圧倒的に少なくて済む。アラビア数字から変換するにしても、絶対的に一手間多いのみならず、ゼロや1を入力する場合、1や〇とするケースと十などとするケースが混在しているため、毎回何度か変換キーを押すことになる)。漢数字の場合は、人名等にも用いるため紛らわしいケースがあり、個数などアラビア数字で表せば誤読されにくい。
- 史料、日本史論文・研究書、新聞、新書、小説、国語教科書等以外の文章の多くは横書きであるため、横書きに馴染んでいる人が多い。
- 脚注(傍注)をページ下に付けやすいので、読む際に脚注を参照しやすい。
- 横書きを必須とする外国の人名・地名・系図やURL等を、違和感なく、記載することができる(発音記号を記載したい場合なども)。
本会は投稿の対象を日本の系図に限定しておらず、海外の系図をテーマとする研究も過去に掲載されたこともある。
- 考古学や遺伝人類学など横書きの学問分野からの学際的研究を掲載しやすい。
- 縦書きの場合は2段組のため、大きめの系図を掲載しようとすると離れたページに掲載することになりやすいが、横書きであれば比較的近いところに載せやすい。
- J-STAGEにXML形式で掲載しやすい。
- 中サイズの系図を掲載しやすい。(小サイズを縦組み1段で表示できるもの、大サイズを1ページにわたるものとして、その中間の1.5段程度を要するものを中サイズとする)
横書き・1段組にするデメリット
- 漢文の場合は、横書きだと訓点を付けられないため、訓読文に限って縦書きにすることになる。
- 縦書きの史料(日本史史料)とは方向が異なる。史料が右横書き(右から左に書く)の場合、紛らわしい。
- 文字や系線等の位置を再現した翻刻を掲載する場合、本文中に入れられず、別枠ないし画像として挿入することになる。
- 日本史学全体の傾向(中高の日本史教科書等を除く)に合わない。
- 綴じ方が既刊とは逆になる。
縦書きの長所短所
縦書きのメリット:
- 訓読文を書きやすい
- 縦書きの史料(日本史史料)の翻刻を載せやすい
- 日本史学全体の伝統的傾向を踏襲していることで安心感を得られる。
縦書きのデメリット:
- 国語教科書、国文学・歴史系の論文・研究書、新聞、新書、小説に慣れ親しんだ人以外には読みにくい。歴史教科書は40年以上前から横書きになっている。
- 脚注(傍注。同一ページ内に記載する注記)を使えない(使うと見にくい)ので、注記を参照する際に、本文と巻末(章末)を行ったり来たりすることになって非常に煩雑。
- 縦書きに対応していない文章作成ソフト(Googleドキュメントや無料版Word、その他フリーソフト)を使用している人が投稿しようとした場合、些少なメリットしかないにも関わらず、縦書き対応ソフトの購入しなければならない。
- 横書きオンリーのソフトの使用者やスマホで執筆している人は、横書きで執筆して、提出前に縦書きに直すという手間がかかる。
- パソコンの画面サイズとフォントサイズによっては、画面の上下からはみ出してしまい書きにくいケースもありえる。
- 漢数字を使用しなければならないため、(特に日付の)視認性(直感的理解)が低い。おそらくほとんどの人が人名・地名・団体名等の固有名詞以外で漢数字を読み書きする機会がないから、日付や数量として漢数字を受け入れにくいと思われる。書き方次第では数量・序数・固有名詞のいずれなのか解読しにくくなりうるリスクがある(「三男」とあったときに「3人の男性」なのか「3番目の息子」なのか「3人の息子」なのか「みつお」なのか、「五巻」とあったときに「5冊」なのか「第5巻」なのか、がわからなくなることもありえる)。
- 漢数字の場合、入力の際の打鍵回数が格段に増えて手間である。
- 漢数字は、全角入力となるため、アラビア数字で半角数字で記述する場合に比べて紙幅を浪費する。
- アルファベット・アラビア数字を使用するもの(外国の人名・地名・系図、外国語で書かれた文章の引用、URLなど)を記載しにくい。本誌は、投稿論文のテーマを国内の家系に限定していないため、海外の家系についての論文を掲載しにくい。
- 考古学や遺伝人類学、法制史、経済史、政治史など横書きの学問分野からの学際的研究の投稿を阻んでいる。
- 段組しない場合には1行が長くなりすぎるために段組せざるを得ないが、そうすると1ページあたりの文字数が減り、ページ数が増える。
- J-Stageに搭載する際にPDF版しか掲載できないため、検索性が落ちる。
縦書きによる弊害についてのまとめ
①脚注(傍注)が使えない(見にくい)ため、注記を後注とすることになり、読者にとっては本文と後注を往復することになって参照しにくい。
②アラビア数字が使えないため、日付等についての直感的な理解が妨げられる。
③数字を入力する際に、アラビア数字の場合は変換の手間がないか、少なく済むところ、漢数字の場合は変換の手間が必ずあるし、何度も変換キー(スペースキー)を打つことが少なくない。
④漢数字はすべて全角であるため、アラビア数字使用に紙幅を消費する。
⑤縦書きに対応していない執筆環境の会員による投稿を阻害する。
⑥海外の系図系譜を対象とする研究や考古学や遺伝人類学などの学問分野からの学際的研究を阻んでいる。
⑦URL、アルファベット人名・地名その他横書きで書かざるを得ないものについて、紙面を回して読むことになる。
⑧J-Stageに搭載した際に検索しにくい。
縦書き・横書きの例
縦書き:新聞、雑誌、国語・国文学・歴史系の学術書・一般書籍(小説・文庫本を含む)、国語の教科書、国語・国文学・歴史系学術雑誌(一部を除く)
横書き:インターネット、国語・国文学・歴史系以外の学術書・一般書籍、歴史の教科書を含む教科書、国語・国文学・歴史系以外の学術雑誌(一部の歴史系学術雑誌を含む)
横書きを採用する歴史系学術雑誌
三波千穂美「歴史学分野の学協会誌における投稿規定一記載項目に関する調査一」『日本図書館情報学会誌』46巻3号(2001年)128頁以下 によると、2001年時点での歴史系学会誌の投稿規程において縦書き・横書きの指定があるのは56%(135頁)。軽く検索しただけでも日本医史学雑誌や西洋史学など横書きに変更した学術誌も散見され、学会運営支援事業を行う会社なども横書き化する学術誌が増えているとしている。
日本西洋史学会『西洋史学』編集後記では、以下のような理由で横書きに変更した。
「ご覧のように本誌も本号より横書きへとレイアウトを変更した。長年、縦書きの西洋史学になじんでこられた読者諸氏には、しばらく違和感を与えるかもしれない。横書きを採用した主な理由は、脚注が可能になること、頁当たりの字数が若干増えること、それになんと言っても、注の欧文を本文と同方向に読める利便性である。今後注が、より丁寧に参照されるであろうことは期待してよいだろう。」
横書きを採用している史学系学術誌の例
- 歴史学研究会 http://rekiken.jp/journal/contribution_rules/
- 日本医史学雑誌 編集後記(54-1) 編集後記(55-1)(縦書きから横書きに変更した)
- 日本西洋史学会 編集後記(縦書きから横書きに変更した)
- 関西大学史学・地理学会(併用)関西大学史学・地理学会 – 執筆要領
- 人文×社会 https://jinbunxshakai.org/ 東大の文学部生・大学院生が創刊したもの
- 政治経済学・経済史学会 https://seikeishi.com/journal/rules/
- 体育史学会 体育史研究 https://taiikushi.org/kenkyu/data.html
- 比較家族史学会 http://jscfh.org/%E5%9F%B7%E7%AD%86%E8%A6%81%E9%A0%85/
- 同時代史学会 http://www.doujidaishi.org/journal/journal_rules.html
- 化学史学会 化学史研究 https://kagakushi.org/kaisoku-kisoku/toko-kitei
- 社会事業史学会 社会事業史研究 https://shakaijigyoushi-gakkai.com/about-the-journal/
- 経営史学会 経営史学 https://bhsj.smoosy.atlas.jp/ja/toukoukitei
横書きの方が読みやすい・好まれているとする学術論文・統計調査
2023年時点の50-70代の9割は横書き派であるとする調査結果
2016年時点での45歳以上は縦書きが読みやすく、それ未満は読みにくいとする研究結果
2006年時点での19~23歳の被験者は横書きが読みやすいとする研究結果
日本認知科学会 縦書きと横書きはどちらがしっくりくるか? -文字種・単語・表示媒体の影響
アラビア数字の方が読みやすい・好まれているとする学術論文・統計調査
七転八倒は7 転 8 倒か?平成 20 年度「放送における数字表現」に関する調査から
縦書きにおける数字について漢数字とアラビア数字どちらが読みやすいかについての2008年(15年前)の時点での1313人に対するアンケート。西暦・年齢については、70~90%の人がアラビア数字を好んでおり、若い人ほどアラビア数字を好み、2008年時点での70代以上の人でも70%以上がアラビア数字を好んでいる。他方、固有名詞や慣用句については漢数字を好む人の方が多い。このレポートでは、50代以上に漢数字を好む人が比較的多いのは慣れ親しんでいるからかもしれないとしているが、この時点から15年以上経過していることから、西暦や年齢について漢数字を選ぶ人はかなり少数派になっていると思われる。
横書き・脚注(傍注)の方が使いやすいとする意見
「注」の形式と縦組での「傍注」の利用 【日本語組版とつきあう22】(公社)日本印刷技術協会
「すぐ近くという意味では割注が最も好ましいが、本文を読む流れが疎外されるというおそれもある。章末または巻末に配置する後注は、本文の流れは疎外しないが、探すのに苦労する。
縦組の頭注や脚注、横組の傍注では、本文の流れも疎外しないし、参照したい場合も近くで探しやすいといえる。しかし、注の配置や分量が平均していないと、余白が多くでたり、同一ページに配置できないという問題が出てくる。
その意味では、横組の脚注は、読者にとっても利用しやすい注である。注の数や分量が多いと問題があるが、DTPなどでも脚注を処理する機能があるので、組版する際にも、比較的に扱いやすい。」
その他の問題
J-Stage搭載への障害
J-Stageへの搭載は、学生会員・研究者会員を増加させるためにはほぼ必須といえるが、縦書きの場合は、PDF原稿しか搭載できず、検索性が低くなるという問題がある。
J-STAGEへの搭載と縦書きの問題
文末注が典拠摘示懈怠の原因・温床か
史学系論文・書籍の場合、最後部の後注(文末注・章末注)や参考文献一覧において、参考文献の書誌情報のみを記載するものが多く、参照頁(典拠箇所)までをこまめに摘示しているものは少なく、出典不明の箇所が少なくない、というよりも多数派である。
※悪い順に
1.全く出典を明示しない。
2.本文中に「伝承では」とか「とされている」「といわれている」などと記載するだけ。
3.主要参考文献だけを列挙する。
4.本文中に論者名のみ、あるいは史料名のみを記載する。
5.本文中に著者名と書籍名のみを記載する。
6.巻末に書誌情報のみを列挙する。
7.文末注に書誌情報のみを記載する。
これは在野研究者のみならず、古い大学教員の研究書であればむしろ一般的傾向とさえいえるが、自己の主張(考察)と他者の考察、根拠資料とをすべて明確に区別し、後二者については典拠を明示しなければ、第三者が検証できず、学術論文として成り立たないばかりか、剽窃・捏造・妄想の誹りを受けかねない。第三者による検証だけでなく、後から自身の論考を読み直したときに、どの参考文献の一体どこを読んでこれを書くに至ったかがわからないと困るはずである。
なぜなら、単に『○○に関する研究』という書名だけが書いてあった場合、執筆者はそれだけで特定できると思っているのかもしれないが、執筆者が知らないだけで同一タイトルの別書籍が存在する場合、読者はどちらなのか判然としないし、特定できたとしても、読者はそれを全部読まなければ、執筆者が当該書籍のどこを読んで解釈をしたのかを検証できないことになる。それが1000頁を超えるとか、全10巻であるなどの大著であったらどうだろうか?
著書だけであれば国会図書館等で検索すれば比較的容易にヒットするものの、史料の場合、史料館等が目録を作成ないし公開していなかったり、個人蔵であったりして検索できないことが少なくないのであるから、どこの誰が所蔵者であるのかを明らかにしなければ第三者は現物を確認しにいくことができない。しかも、『伊東系図』というような、ありふれたネーミングの史料である場合、執筆者は「この史料だよ」という一心で書いているのかもしれないが、読者からすれば、一層探し出すのが困難である。
この原因は、元々の史学界における典拠摘示習慣の欠如にもあるとは思われるが、引用・参照した頁と注記の頁の位置が離れていることで、出典情報をこまめに摘示する習慣付けが阻害され懈怠するようになったことにもあるのではないかとも考えられる。頁毎に記載される脚注であれば、本文と脚注を同一頁内ですぐに参照し合えるため、第三者は検証しやすいし、何より執筆中の自己にとっても記述の妥当性を執筆しながら検討しやすくなるはずだからである。にもかかわらず、単に投稿規程が伝統的に縦書き指定になっているからといって、わざわざ参照しづらくするのはおかしい。執筆中のみ脚注を表示させておき、投稿段階になって文末注に設定を変更すれば、筆者の自己検証はしやすいが、第三者による検証は依然としてしにくいままであり、縦書き指定だけのために脚注にしないというのは理に適っていない。
私自身の経験では、慶應法学部でも東大法科大学院でも参照頁までしっかり明記するよう指導されていたので、史学界の出典記載のいい加減さには強いカルチャーショックを感じている。
そこで、各大学ではどうなっているかGoogle検索で上位に表示されたものを列挙したところ、次のとおりであった。なお、単行本の参照頁の明記を求めない類型であっても、引用した場合は参照頁まで記載することを求めている。
【単行本の参照頁まで明記することを求めるもの】
【単行本の一部を参照した場合は明記するべきとするもの】
【単行本の参照頁まで明記することを求めないもの】
法政大学図書館 ※説明文では参照頁を求めているが、具体例では求めていない。
東京女子大学現代教養学部心理・コミュニケーション学科コミュニケーション専攻
以上のとおり、Google検索の上位にヒットしたものを列挙したに過ぎないが、単行本の参照頁まで明記することを求める学部研究科は少数派であるのかもしれない。しかし、上述したとおり、単行本全部を読まなければならないとするのは検証者にとって大変な手間であるから、私は、当該論文で初出となる自分の主張を除き、引用した主張・参考文献・史料については、脚注で参照頁まで明記すべきという立場である。
小結
→万葉仮名で書かれた文章や白文、書き下し文その他漢字仮名交じり文で書かれた引用を横書きにしたところで、史料や縦書き資料から書き写す際に縦横に少し苦労する程度であって(それ自体は翻刻にOCRソフトを使用すれば解決する)、読んだり組版をしたりするに当たってはさほど不都合はないのでは?
また、右横書きの文を引用するケースはかなり少ないし、その場合の手間は、縦書き以下である。
そうすると結局は、縦書きを採用しているのは、❶訓読文の都合、❷文字や系線等の位置を再現した翻刻の都合、❸長年の業界慣習という3点に集約され、2段組にするのは、縦書きを採用したことに附随するものに過ぎないと考えられる。なお、手持ちの会誌を確認したところ、系譜や釈文の掲載は少なくなかったが、訓読文を記載する論考の数は1つしかなかったから、重視すべきは系譜・釈文である。
→系譜や釈文、訓読文はいずれも引用なので、本文とは区別されることを考えると、横書きの本文の間に系譜や釈文があると、視認しやすい(区別しやすい)とも考えられる。
→そもそも本会は日本の系図に限定しておらず、外国特に西洋等横書き文化圏の系図をも対象としているのに、縦書きに限定するのは、実際には西洋系図を対象とする論考が掲載されていないとしても、原理的にはおかしい。
→学術雑誌によっては両方対応していることがある。その場合、一方を基準としてページを振ったならば、他方については基準のページの隣に括弧書きで逆のページを振っている。
→ブラウザ上の文書作成ソフトを使用している場合、スマホ等での執筆もしやすい一方、縦書きができず、完成後に別のソフトで縦書きに直さなければならない。また、J-STAGEには、PDF形式であれば縦書きでも搭載できるが、XML形式(読みやすい)での搭載が推奨されており、XML形式は横書きのみである。
→横書きに一括変更することに心理的抵抗を感じる会員が多いとしたら、縦書き・横書き混用も一案だが、組版に手間がかかりそう。なお、Wordの場合はページごとにページの向きを変えることはできる。
→冊子版をこれまで同様縦書きとし、新たに電子版を刊行して横書きとするのはどうだろうか。